J−PARCって何? 日本原子力研究開発機構と高エネルギー加速器研究機構の共同プロジェクトとして進められている大強度陽子加速器(J−PARC;ジェイ・パーク)計画について、茨城県原子力審議委員の関宗長茨城県議会議員を訪問し、J−PARCについてお尋ねしました。 そもそもJ−PARCって何? ということですが、一言で言えば「原子や原子核など、今まで小さくてよく見ることができなかった世界を見て、調べることができる研究施設」ということだそうです。J−PARCは世界最高性能の研究施設であり、世界中から研究者が集まり、ノーベル賞クラスの最先端の研究が行われます。 研究の基本は「物をよく見て調べる」ということです。今までよく見えなかった物が見えるようになると、新しい発見や発明が生まれます。例えば肉眼でしか星を見ることが出来なかった時の常識である天動説が、望遠鏡という更に遠くを見られる道具の発明によって地動説に覆されました。J−PARCが生み出す強力な中性子や中間子を、全ての物質を構成している原子の世界をよく見て調べるための道具として利用することで、様々な分野の研究や技術開発の飛躍的な発展に貢献するものと期待されています。 J−PARCは昨年10月に日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構が統合した独立行政法人「日本原子力研究開発機構」と、つくば市にある大学共同利用機関法人「高エネルギー加速器研究機構」が共同で、東海村に建設を進めている研究施設です。 J−PARCでは、まず加速器と呼ばれる装置で水素の原子核であるプラスの電気を持った陽子を加速します。光速(秒速30万km)の99.98%のスピードまで加速できます。次に加速した陽子ビームを水銀などの金属に衝突させます。スピードのあるボールが衝突した的を壊すように、原子レベルで見ると光速にまで加速された陽子が水銀の原子核と衝突してバラバラに壊し、中性子や中間子などを発生します(下図参照)。これらの中性子や中間子などの粒子を、原子の世界を見るための道具として利用するのがJ−PARCです。 J−PARCでは様々な研究が行われますが、大きく分けると、快適な暮らしを実現していくための「技術の最先端」を目指す研究と、今まで私たちが知らなかった未知の世界を探る「知識の最先端」を目指す研究の2つのグループになります。 「技術の最先端」を目指す研究としては、中性子を利用した物質科学研究、生命科学研究があります。物質科学研究とは、新しい材料を開発したり、これまでの材料をもっとよく調べてその構造を解明し、より役に立つものにしていく研究です。材料の構造をいわゆる「ナノ領域」まで高精度に解析することで、これまで以上に利用効率の高い小型電池や燃料電池、超伝導材料の開発などが可能になります。 また生命科学研究では、私たちの体を造っているタンパク質の詳しい構造や機能を調べ、難病治療薬や高品質化粧品の開発などが期待できます。更に、放射性廃棄物に含まれる長期間の保管管理が必要な放射性物質を短期間での保管管理で済む物質に変える技術研究も行う予定です。 このように中性子を利用した最先端の研究は、産業への利用、応用が期待されています。地域振興や発展にも繋がります。そのため茨城県でも、J−PARCに生命科学や物質科学研究のための装置(ビームライン)を独自に2本建設する予定です。この装置を県内企業や県内に研究所を有する企業等に優先的に利用してもらうことで、特に県北地域の産業の振興や発展に貢献することが期待されています。 一方、「知識の最先端」を目指す研究は、私たちがこれまで知らなかった世界、未知の世界の謎を解き明かしていく、とてもワクワクするような研究です。例えば宇宙の始まりにどのようにして物質は造られたのか、物質に重さがあるのはなぜかといったような、基礎科学の研究が中間子を利用して行われます。これまでの常識を覆すような、新たな発見があるかもしれません。 これらの中間子を利用した研究は、主に高エネルギー加速器研究機構が中心となって行います。特にニュートリノの研究は小柴先生がノーベル賞を受賞された研究であり、J−PARCから約300km離れた岐阜県飛騨市神岡町にある「スーパーカミオカンデ」という、世界で最も優れたニュートリノ検出装置とJ−PARCを同時に使って研究を行います。 J−PARCは総事業費約1、500億円で、那珂市に隣接する東海村の日本原子力研究開発機構東海研究開発センター(旧日本原子力研究所東海研究所)内に建設中です。建設面積は約65ヘクタールにもなる大プロジェクトです。平成20年度には装置が完成し、稼動を開始する予定です。 J−PARCは完成後、世界中の研究者に拓かれた研究施設になります。国内外から年間に3、000人から4、000人の研究者が、入れ替わり立ち替わりJ−PARCで研究するために訪れるようになるでしょう。海外からも約1、000人の研究者や技術者がJ−PARCで研究するものと予想されています。 世界最先端の優れた研究施設であるJ−PARCには、国内外を問わず優れた研究者が集まることで、すばらしい研究成果が生み出されます。そしてJ−PARCで生み出された最高の研究成果は、さらに優れた研究者をJ−PARCに集めることにもなります。日本原子力研究開発機構那珂核融合研究所の核融合研究とともに、この地域の知的存在感を一層高めることになるでしょう。また最先端の技術開発は国際的な産業競争力を生み出し、生命科学の研究は最先端医療などと連携して安心・安全な暮らしに役立ちます。 この知的存在感があり、国際競争力があり、安全・安心して暮らせる地域、国というのは、これからの21世紀、茨城県そして日本が目指すべき姿でもあります。J−PARCはこのために多大な貢献をする施設として、国内外の各方面から大いに期待されている研究施設です。 (参照図) 加速された陽子ビームが標的(水銀の原子核)を破砕して、中性子や中間子を生み出す。これらの生み出された粒子が、原子や原子核の世界を見るための道具として利用される。資料茨城県資料引用
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